extra II
INTERVIEW


CELL DIVISION (1994)

「MULTIPLE HIGH いい曲はいいクスリ」

気持ちいいこと、それはなに?セックス、ドラッグ、ロッケンロール?ギターにノイズにファンク?怒りまくって泣き
ながら笑ってみるのもテだが、アッパー&ダウナーの両方をクールにキメて 空を仰ぐのも 基本は基本だ。 ジャンルが
とっくに死んだ今、 全部の音が殺し合わずに リミットぎりぎりに快楽へと総動員されたバクテリア 初のフルアルバム
「CELL DIVISION」の向こう側。

バクテリア。つまり、細菌。広辞苑第四版には原核生物に属する単細胞の微生物で、二分裂を繰り返して増殖する(概略)
とある。 なるほど。 バクテリアのニュー・アルバム「CELL DIVISION」を聴きながら こうして辞書をひもといてみて、
私は大きくうなずいてしまった。まるで、体の中の細胞が徐々に動き出し、しまいには一斉に暴れ出すような、そんな
ジクジクした感触。聴く側の意志ではどうにもコントロールできないような、圧倒的な主張を持った音、とでも言えば
いいのか。しかし、不思議なことに決して聴き手を押さえつけるものではない。むしろ、どこか開放的であったりもする。
それなのに、聴き終わった後には、しっかりとそのサウンドが耳にこびりついて離れないのだ。これはどうしてなのか。
実はこのアルバムに至るまでに、 バクテリアにはひとつ、 大きな転機が訪れている。 昨年発表された6曲入りミニ・
アルバム「SEASON OF DISEASE」の後、ドラマーがチェンジしているのだ。この時期を境に、バクテリア自体も微妙に
変化を遂げた、とリーダーでヴォーカルとギターを担当するカワグチは言う。
カワグチ:「SEASON OF DISEASE」がでた後、僕等としては、活動を大きくしていきたかったんだけど、前のドラマー
は仕事が忙しくてなかなかツアーに出られなくて。 で、その頃からウエノには目をつけててから、ツアーでまず手伝って
もらったんです。
―――活動を大きくしたいというのは?
カワグチ:まあ、具体的に言うと、ツアーです。そのために週に何度もスタジオに入ったりすることが、 (前のドラマー
にとって)大変になってきたりしたんで。
―――今度のアルバムは前のに比べて、随分と生のドラムが主体となった音作りになってますよね。去年の段階で今後
そうしたライブ感覚を取り入れた方向性で行こうと考えてドラムを変えたわけではない、と?
カワグチ:ああ、 それは全然。 まあ、 たまたまリンクして バンドの音も 変わっていきましたけどね。 別に こういう
スタイルにしたくて ウエノに入ってもらったわけではないんです。 ただ、 彼が入って、 打ち込みが主体だったのが、
単純に ドラムに合わせられるようになりましたね。 前は ドラム と 打ち込みの割合が 半分半分だったんですよ。 で、
ベースも打ち込みを使ってたから、それも半分半分でしょ。だから見た目は3人だけど、出てる音は倍くらいあるよな、
みたいなことを考えてたんです。元々、打ち込み(機材自体)も第4のメンバーみたいな感じでいたりしたし。でも、
ウエノはシンプル指向なんですよ。要らないものはどんどん削っていく、みたいな。僕等はどっちかっていうと、ガシャ
ガシャってさせてしまう方なんです。でも、彼によって僕等もシンプル指向を分かりかけてきた。だから、少なくとも
レコーディングでは彼のドラムを全面的に出した方がいいと思って。
ウエノ:でも 僕はバクテリアって 一度も見たことがなかったんですよ(笑)。 前のアルバムだって一緒にやるように
なってから聴いたくらいで。
カワグチ:バクテリア自体、クラブで体験するハウス・ビートをバンド編成で出来ないものかしら、というところから
始まっているんです。でも、これは単純に音楽面だけじゃないんですよ。例えば、ハウスを聴いて快感に至ったりする
わけじゃないですか。サイケとかアシッドみたいに。そういうのを演奏しながら体験したいというのもあるんですよ。
―――演奏で心地よさを得る、みたいな?
カワグチ:僕はそうですね。セックス・ドラッグ・ロックンロールという言葉がようやくわかったと言う感じですかね
(笑)。 単純に どれも気持ちいいこと ばっかりでしょ? まあ、 セックス・ドラッグ・ハウスというか。 この場合の
ハウスは自分のステレオで聴くハウスじゃなくて、クラブで体験するハウスのことなんだけど、ぼくはそういう気持ち
良さをステージで体験しようとしてやっているんです。他のメンバーはどうか知りませんけど・・・(笑)。
キヌ:俺も気持ちよけりゃ、まあいいかなって感じだよ。
カワグチ:ああ、やっぱり一緒だ(笑)。
―――例えば、前時代的ですが、誰かに何かを伝えたいとか、そういうメッセージ性はバクテリアにはない、と?
カワグチ&キヌ:(笑)全然!
―――じゃあ極端に言えば、お客さんが一人か二人でも、すごく気持ちのいい演奏が出来れば、それはかけがえのない
ものである、と?
カワグチ:俺は、そう思うけどね。ただ、お客さんっていうのは自分のテンションに関わってはきますよ。お客さんが
たくさんいれば、盛り上がるし。まあ、僕は僕のためにステージに立ってますから。自分がダメだなと思った演奏を、
人にいくらほめられても全然嬉しくないですよ。逆に、自分が最高だったら人に何と言われようと最高ですから。
―――そういうのがメンバー間で食い違ったりすることってないんですか?
カワグチ:いやあ、バンバンにありますよ。
キヌ:この前なんて、俺とウエノはいじけて飲みに行ったりしたのに、カワグチはひとりご機嫌だったし。(笑)
カワグチ:でも一時、 去年アルバムを出した頃だったんですけど、ずっとテンションが上がらなかったんですよ。何度
ライブをやってもダメで。
―――何でそうなったんですか?
カワグチ:それは曲でしょうね。やっぱり、いい曲を作らないと、気持ち良さは得られないんですよね。気持ち良くなる
には、いい曲を作るというか、いい薬を発明するのが一番ですから。
―――なるほどね。そもそも曲って、どのように作るんですか?
カワグチ:曲作りに関しては、昔から僕やキヌちゃんがMTRでほとんど完璧な状態にして作ってくるんですよ。で、
それをスタジオでみんなで聴いて、とりあえず最初コピーするところから始めるんです。
―――コピーする前に、他の二人から意見は出ないんですか?
カワグチ:いや、出ますよ。でも、意見を言い始めると収拾つかないんですよ。だから、まずはやってみる。で、その後、
それぞれ言い合ったりして変えていくんです。
―――それによって、当初のデモ・テープとは大幅に変わってきたりすることもありますよね。
カワグチ:ええ。要するに、デモ・テープっていうのは曲作りのきっかけというか、コピーするトラウマにしか過ぎない
んですよ。そりゃ、作ってきた人には、それなりのイメージっていうのがありますけど、それも変わっていって構わない
んですから。
―――では、この曲はこれで完成だ!っていうのはどういう形で決まるんですか?
カワグチ:いや、なかなか決まらないですよ。ライブでやってみて“違うね”っていうのもあるし、ずっとやっていく
うちにつまらなくなって消えていっちゃって、またやりたくなった頃には全然違う形になっていることもあるし。だから
一曲ガシッと完成するのはCDになってようやくっていう感じですね。
―――じゃあ、一曲が完成するのにすごく時間がかかるでしょう?
カワグチ:かかりますね。実は今回、半分が新曲なんですよ。5曲はライブである程度完成させていたんです。だから、
このままバチッとCDにしちゃおうよって話してたんですけど、フル・アルバムってものに惹かれたんですよ。バンド
として一枚くらい出しておいてもいいでしょうって。 で、 慌ててCD用に 曲を書いて足したんです。 新曲を作るのに
時間がかかるのに、短時間で無理造り。
―――でも、そんなバラバラな感じはしませんけどね。 最初からあった何曲かと、無理造りで書いた曲との間に、あんまり
差が出なかったんじゃないですか?
カワグチ:ええ、 それが出なかったんですよ。 出なかったから良かったんだろうなって。 その差が出るのを恐れてて、
曲を足すのがイヤだったんですよ。だから5曲入りにしようよって言ってたぐらいで。
―――ただ一方で、一体このバンドは何をやりたいの?って言う人たちも出てくるかもしれませんよね?
カワグチ:絶対、 出てくるでしょうね。 僕もそう思います(笑)。今回、 曲が増えたことで余計にそう感じますよね。
キヌ:でも、 俺は あえてこうしたかったんだけどね。 日本のバンドが こういうのを作ったら、 必ず このバンド 何が
やりたいんだって言われるでしょう? ブラー や ビースディー・ボーイズ みたいのがメチャクチャなのを作っても何も
言われないのに。だから、やってみたかったんだよね。
―――でも、 やっぱりちゃんと 統一感がありますよ。 それはメロディの構成もそうだし、 シンプルになったとはいえ、
音の処理の仕方にしてもそうだし。
カワグチ:僕自身、リミキサー体質なんですよね。既にあるものを自分の中に通して、僕だったらこうするんだけどな、
という形で、 バクテリアをやっているんですよ。 だから、 僕は曲を作ろうとして作らないんですよ。 一瞬思いついた
イメージやフレーズが、どんどん変わっていって蓄積されていくわけですから。まあ、口で言うと難しいですけどね。
―――じゃあ、「バクテリアって一体何がやりたいの?」って聞いてきた人がいたら、何て答えます?
キヌ:「やりたいようにやるんだよ」(爆笑)。だってね、 打ち込みがあって、カワグチのノイズ・ギターがあれば、 もう
バクテリアですからね。
カワグチ:結局、 バクテリア、 なんでしょうね。 本来ならバリバリのテクノ・ユニットのものも、 この三人でやれば
「バクテリア」になるわけだから。

TEXT:Shino OKAMURA / FOOL'S MATE 1994
re-edit:SCUM 2004