extra II
INTERVIEW


L O S T (2009)

「くだらない世界の憎しみを超えた地平へ」
03年の「SCUM」、05年の「HATE ALL」に続くBACTERIAのニュー・アルバム「LOST」
はこれまでのアプローチの集大成でありながら、攻撃的なエネルギーを放出するので
はなくではなく内側に注ぎ込むことにより、ノイズの音圧の壁の中の端麗で深淵な世
界が露わになった作品となった。新作が指し示すものについて、メンバー3人が語っ
てくれた。


ーーー今回のアルバムは三部作の完結編ということですが、これについて説明して
もらえますか?

カワグチ「SCUM」は、自分の中で世の中が殺伐としているような感じがあって、そう
いう“スカム”なイメージを表現したんですね。「HATE ALL」は、そういうスカムな
世界を乗り越えていくための手段として周囲を攻撃するというか、すべてを憎んで生き
づらい世の中を乗り越えて行こう、みたいのがあって。 それで、「HATE ALL」を作り
ながら最終的にはそれを乗り越えて行った世界ってものを見つけて、ひとつのアルバム
にまとめなきゃいけないなってのはあったんですよね。で、次第にできたのが、今回入
っている曲だったりするんです。それをまとめて、遂に見出した世界観ってのが今回の
アルバムなのかな。

ーーー今回のタイトルが「LOST」。喪失感であるのに、“見出した”という表現が面
白いですね。

カワグチ そう、逆説的なのかな。要は“憎しみ”みたいなネガティヴな方向が取り払
われたような感覚ですね。心の歪みが取り払われた世界っていうのか。でも、それが完
全に取り払われて幸せになったのかっていうと微妙な部分で、幸せには至ってないとい
うか、まあ、“関係ねえよ”みたいな(笑)。今まで攻撃の対象だった事柄や人たちに
対しても“(それはおれたちとは)関係ねえよ”みたいな。そうすることによって、生
きやすいというか、スムーズに事が進んで行くような感覚ですね。

ーーー「LOST」では、アコースティックな響きや静寂感が象徴的な感覚ですね。

カワグチ 今までは殺伐とした世界観だったり、憎々しげなものだったり、攻撃的な部
分を、歪みを多くすることで表現してたのが、研ぎ澄まされていったというか・・・。
自分の心の刺々しい部分が“周りとは関係ないよ”としていくことで、なんんとなく浄
化されていったイメージですね。音を削ぎ落としていく作業をメインにして、それが自
分の気持ちとリンクして静寂なイメージに繋がったのかなって思いますね。

ーーー今回、ベースがメロディーを担うことで3人での最小限の表現を深めてる印象で
すね。

スズキ ギターの歪みが減った分、浮き出てきたのかもしれない。彼(カワグチ)はも
ともとベーシストですから、彼が作る曲は自ずとベースがメインだったりするし。

デン 普通のバンドみたいにベースとバスドラでボトムを担うというよりも、ベースと
ギターとアンサンブルを作って、ドラムはどちらかに合わせて自由にやってる感じだっ
たりしますね。確かに今回、ベースは目立ちますよね。今までより聴こえてくる感じ。

スズキ 今回はベースの歪みを下げて録音して、後の作業でそれを全部コントロールし
てるんですよ。

カワグチ 前はギターと潰し合ってたところもあるかもね。今回は分離を考えたり、ぶ
つからない音色や音域を延々と探して・・・みたいな作業だったんで。

ーーー三部作完結というのも、思いつきでなく、前二作からの流れの中での必然性があ
った感じなんですかね。

デン「SCUM」も「HATE ALL」も、わりと、“to be continued”って気分ではあった
んだけど、今回はひとつ終わった感じがありますね。

カワグチ「Fin.」みたいなね。(笑)



TEXT / Hiroyuki KAWAKAMI

from INDIES ISSUE VOL.47. OCT/NOV .2009