extra II
INTERVIEW


L O S T (2009)



―――美しいアルバムですね。

ありがとうございます。

―――前の二作品と比べて、リズムバリエーションも増え、イメージも広がって、非常
に洗練されたというイメージがありますが。

BACTERIAはやっぱり自分の生きざまみたいなところがあるので、 その時のリアルタイ
ムの感情とか、 思っていることが 直接出ちゃうんですよ。アルバムで言うと、『 SCU
M』の時は、“この世の中が生きづらいな、自分の思うようには生きていけないな”と
いう意識があって。でも、 ただ文句言ってるだけじゃしょうがない。どうやって自分が
その世界をクリアしていくか、乗り越えていくかっていう、そういうプロセスとして、
攻撃的なスタンスでの決意表明をしたのが『HATE ALL』。世界を掻き分けていく みた
いな姿勢をとったからには、その先にあるものを目指して突き進まなくちゃいけない。
だから、自分自身の生活の中で“ああ、なんか乗り越えられたなあ”っていう、きちん
とした結果が見えた時に、“どういう世界がここで待っていたかっていうことを、次の
アルバムでちゃんと作らないといけないなあ”って。

そう思うなかで、いろいろ曲が出来てきて。そこに当然反映される、自分の中にあるノ
イズ……ネガティブな感情っていうか、ザラザラしていたり、尖っていた部分っていう
のが、ちょっとずつ丸くなっていくような感覚があって。それが音にも現れてきて。敢
えて作ろうとしたわけじゃなく、“ああ、こういうことなのかな”みたいな曲がポコポ
コと必然的に出来てきたり。音処理にしてもね、今までフェーダーぐんぐん上げて、音
もぶっ潰して、“おりゃあ!”みたいな感じだったんだけど、今回は“まあまあ、落ち
着いて”という気が自分の中ですごくあって。一つ一つの音についても、丹念に“これ
はこの音でいいのか。”“この音はどうすれば一番いい位置に持って行けるか、そのた
めにはこっちの音をどの位置にずらしていくか”というように、すごく丁寧に考えて作
っていった結果が今回のアルバム。だから、そういう意味で、“洗練”されたというこ
とは、自分自身の感情が前の二作に比べて洗練されたっていうことだと思います。

―――ライブとの関わりについては?

ライブは……たぶん、音圧はまだまだあると思うんですけどね。今までの音源は、ライ
ブを再現したものとして作ってきたんですよ。特に『SCUM』なんかはね。 自分のライ
ブの音をフロアで体験することはできないわけだけど、だからこそ、それを再現してみ
ようかなって、ライブハウスで鳴ってるような音にしたかった。アレンジは、『SCUM』
の頃にもそれなりに凝ったものにしていたわけだけど、それよりも音圧重視。勢いでね
じ伏せるような部分を優先してきたんだけど、今回は生音、エフェクターを通さないギ
ターを使った静かな曲も増えてきたので、アルバムにまとめるにあたってことに今まで
と同じ考えで音作りをする無理が出てきたところもあって。

“じゃあどうする?”となったときに、せっかく考えてきたアレンジ、アンサンブルを
効果的に聴かせられる音作りをすることによって、ラウドな曲もアンビエントな曲も、
並列に聴かせられるんじゃないかと。そこで、一音一音を研いでいったんですね。基本
的にはささくれ立っているノイズの音を、丹念に EQ で研いでいって、 それを一音一音
適切な場所に配置していく……組み立てていくっていう。だから、ベースも歪んでるし、
ドラムのシンバルがうるさい曲もあるし、ギターも、生音でもレッドゾーン行って、ち
ょっと歪んでるとかね、個々にはあるんだけど、全体的には重苦しくない音作りを目指
したところがありますね。

―――楽曲の緻密さは今に始まったことではないですからね。

そうですね。ようやく今回それが功を奏したっていうか。(笑)そういうふうにしても
いいかな、楽曲ありのままでいいかなと思うようになって。だから素朴なものを目指し
ました。何度でも聴き続けられるものにしようっていうのがあって。もちろん、人によ
んっては今までの『SCUM』 にしろ『HATE ALL』 にしろ、長く聴いてくれていると思
うですけど、その、重くならない……音が重いとかそういうんじゃなくて、その人にと
って重くなりすぎないように。あまり、何かに対して攻撃的でないようになってきたん
じゃないですかね。

―――4年の間に随分と穏やかになりましたね。“すべてに憎しみを”と言ってた人が。

そう。その方法もね、“赦す”っていうんじゃなくて“ないものとする”というやりか
たなのね。“それは関係ない”っていう。今までは憎しみの対称があると、いちいち攻
撃してたの。“ざけんなよ、うりゃあ!”と。でも、今はそれを排除しちゃうの。ささ
ーっと。それが、わりと『LOST』っていう感じなんです。

―――えっ!?今、あっさりとすごいことをおっしゃいましたね?惜しむどころか、喪
失して楽になってしまったということ?

そう。ネガティブな部分を“喪失”っていう。そうするとなんか、素朴なものが残った
っていうか。“あ、なんにもないね、楽ちんだね”みたいな。

―――でもそれ、ある意味怖いですよ?

はははは。ある意味怖くていいの。

本当は最初ね、『LOST』っていうタイトルにする前に『BLESS』(御加護・祝福)っ
ていうタイトルにしようと思ってたの。ある時、なんか憎しみが消えたあとに、“ああ、
ものすごく 幸せだね” っていう 感情が 一瞬芽生えて。 そこで『 God bless you 』の
『BLESS』にしようと一度は思ったんだけど、“あれ?なんかそこまでは行ってねえな”
っていう。“そうじゃねえな、そんな幸せじゃいかん!”みたいなものがそこにあって。

―――それは人として、あっちの世界へ行っちゃうくらいの境地ですよ?

だから結局、生きている限り必ずそういうものにぶつかるわけですよ。でもそれが自分
にとって必要でないものならば、どんどん“ないもの”としましょうっていう。捨てて
いきましょう、みたいな。

―――哲学的な香りもしますね。

哲学、、思想かな?個人的にはもともとそういうものを持ってはいたんだけど、音楽を
通じてそれを表現しようっていうのはさらさらなくて。でも、今回はなんか、このアル
バムを本みたいなものにしたかった。いろんな事が書いてある本っていうか。

BACTERIA の音楽性自体、もともと多種多様だったんだけど、音圧だとかノイズでそこ
を統一していたんですよ。今回はそういうことをしなかったためにいろんな音楽性が目
立つようになったんじゃないかと思うんだけど、だからこそ、それをね、いろんな音の
事が書いてあるような本みたいに編集しようと思って。そのことは制作段階からひとつ
言っていて。たとえば岩波文庫でも、講談社文芸文庫でもいいんだけど、こう、白い紙
に文字がば〜っと書いてあるような。情報量はすごくあるんだけど、派手ではない。ビ
ジュアルで何かを訴えるとかいうことではなくて、情報量が詰まっている、かつ簡素っ
ていうふうにしようと思ったんだよね。それが、前よりも哲学的に見えたのかな。

―――たとえば、今回「VOICE」という タイトルの曲が VOICELESS なのは、いかなる
ことかと、やはり思ってしまうんですが。

う〜ん……これは普段から思ってることで、って、そっから入っちゃうんですけど、ノ
イズをとらえるときに、“めちゃくちゃに弾く”とか、ギターだったら“掻き鳴らす”
とか、もともと楽器がチューニングされたものであるという考えに基づいて、それをめ
ちゃくちゃに弾くことによってノイズを出しているかのように思われているでしょ?だ
けど、俺は、本来音楽自体がノイズをチューニングしているって思うのね。

―――おお!

音そのものにはコードもなにもないっていうか。周波数だったり波形だったりする、漠
然としたその振動を、チューニングすることによってコード化してるっていう。だから、
音楽って、もとはノイズなんだよっていうのが、俺の中にはあって。少なくとも俺の…
…BACTERIA にとってのノイズとはそういうこと。音楽をめちゃくちゃにしてノイズに
しているわけじゃなくて、 ノイズを チューニングして 音楽にしているわけです。で、
「VOICE」に戻ると、声自体だって もともと意味があるわけじゃなくて、発音をチュー
ニングして言葉にしているわけじゃない?ってことは、声もノイズ・音であって、その
元を辿っていくと、ギターとかドラムが“ドン”ってやっているのと同じように周波数
になっていく。同一のものになっていくのかなって……そういうようなことを……思っ
ていたんじゃないですか?きっと、そういうことを考えてくれるといいなっていうこと
だと思います。あとは、単純に“「VOICE」なのになんでインストなんだ?”っていう
フックかな。どっか引っかかるところがあってくれたらいいなと。

―――まんまと引っかかりました。

8曲入ってるんだけど、裏ジャケとか見ると、4曲 / 4曲で2行になってるでしょ。あれ
はね、SIDE A /SIDE Bっていう発想。A面に相当する4曲はライブでもノリのいいもの、
代表曲っていうか、割と音圧のあるものを並べて、B 面は、ライブの中でもちょっと転
換用になってる曲を集めて。『 SCUM』とか『 HATE ALL』っていうのは、ライブ通り
の曲順に近かったりするかもしれないんだけど、今回はライブの再現じゃなくするんだ
から「この世の終わり〜」とかを最後にしたりするのはやめようと。
これまでの作り方であればライブと同じようにこの曲とかを最後にして“わ〜”って終
わってるとこなんだけど。

―――タイトルはいつ決まったんですか?

今回は一番最後。特に今回は落としどころをすごく考えたからね。
前の『SCUM』と『HATE ALL』は割とぱっと決まってたんだけど、今回は最後の曲を
アルバムタイトルにしようと思っていたし。この曲を「BLESS」にするか「LOST」に
するかっていうのをものすごく考えたから。

ラストはサンプリングのドラムなんだけどね、やっぱりそこもアナログレコード的な発
想で、回転がどんどん遅くなったら面白いかな、と。マスタリング時に処理しました。
アルバムの最後で、DJ 用のターンテーブルをポンと押して、曲が終わり、で、またひっ
くり返してA面から…………と。まあ、そうやって、何度も聴いて欲しいですね。




TEXT / Shigure 20090926
EDIT / scum 2011