extra II
INTERVIEW


SEASON OF DISEASE (1993)

「少年、肉体、DANCE、そして腐敗」

始まりは7年前にさかのぼる。 ノイズ・パフォーマンス・ユニット として結成されたバクテリアは 長い間ヴォーカルの
カワグチのソロ・プロジェクトとして機能した。 カワグチ = バクテリア という基本姿勢を 崩さず、 それまでのソロ・
ユニット形態を改め、バンド編成にしたのは去年のことだ。

「この形になったこと自体に 特別意味はないんです。 音を託せるメンバーが見つかったんで、 自然にこうなっただけ。
自分の中でもそれほど大きな変化があったとは 思わないんだけど、 見にくる方には大きかったみたい。 ユニットの時の
ファンって、今のバクテリアのライブには来ないから。」

ソロ・ユニット時代に行われていたライブは、むしろ舞台と形容されるべきものだったと記憶している。
天井から吊された半透明な布を 次々に身体に巻き付けるようにして踊る舞踏家達。(実際、カワグチは舞踏に興味を持ち、
自身も舞踏集団のワークショップに参加、 何度か公演を経験している。)何台ものモニターからおびただしく流れる観客を
威嚇する映像と音、 それらと共存/浸食するかのようにバクテリアはいたのだ。 旋律は演奏されるが、 カワグチの声は
歌の為には存在せず、喉を完全に楽器化した音としての「声」。
年に2・3回しかライブを行わなかったその時期から比べると、現在のバクテリアはライブの数も増え、非常に活動的だ。
7月には待望のファースト・アルバム「SEASON OF DISEASE」がリリースされる。

「特に新曲は入ってないけど、今までやってた曲のアレンジを全部変えました。今までのバクテリアにはないスタイルの
曲もあって、バラエティにとんだ仕上がりになってますが、僕は全部ハウスだと言い切ります。」
「ボディやインダストリアルなものに比べてハウスは軽いとか言われますが、それはCDプレイヤーなんかで聞く場合の
話であって、確かに軽いんだけど、 クラブで実際聞くのに具合のいい軽さ。 あたりさわりのない音なんだけど、 低音も
ガンガン出てて身体が少しだけふわっと浮くような、そういう軽さ。」
「今はハウスもいろんなジャンルに別れちゃってますよね。テクノハウスなんてわけのわからない言葉まであるし。僕ら
はそういった状況の中で やり直すというか、 もう一度 ハウスの原点に 戻ろうと。 そもそも ハウスって なにをやっても
よかったはずのものなんですよ。 で、 今回、 自分らが 日々 聞いている あらゆる音楽 から いいところを 全部 いただき、
サンプリングしました。だからミクスチャーだよね。ハウスのミクスチャー(笑)」
「このCDはバクテリアの中ではメジャーな部分でしょうね。ちゃんと曲になっているし、 それこそ昔みたいな リズムの
垂れ流しっていうのは、最初の32秒でしかやってない。」
「昔は詞を理解してもらうために アート・コラージュ・ブックを作って、 ライブで 配ったりしてたときも ありました。
暗闇の抱擁から逃れる、 みたいなデカダン(笑) な詞が多かったときですけど。 もうそういう伝え方は しないと思う。
否定はしないけど、自分の中で言いつくしちゃった部分があるんです。」
「今のバクテリアってクラブミュージックだから、やっぱり踊って体感してもらわないことには困るなと。踊ってるときっ
て、どっか飛んでるでしょ。使い古されてるけど、ダンス・マカブルって言葉もあるし。」
「人は何処から来て何処に行くのかって考えた時にね、形のない魂よりも形の有る肉体の方を重視したいなと思ったんです。
肉体そのものが自分であって、それが滅びたら自分という定義もそこで終わると。 結局、死んでみなきゃ分からないって
部分はあるわけだけど、疑似体験の死を提示したいと思ってるんですよ。バクテリアの音で。 それはより "自然" に近づいて
いくための仮想の死なんです。」

生きてる人間はどこまで自分の死を意識できるだろうか。 魂は死をも超越するって話だが、輪廻転生を今すぐ実感するのは
難しい。来世を信じる心は否定しないが、どっちにしろ、生まれ変わるためには死ななきゃなんない。 そういう意味でも、
生から最も遠い位置に死が存在しているとは思えない。生き続ければ肉体は老いていく。 あらかじめ細胞に記憶された作用。
誰の上にも例外なく降りかかる予測できない災難、あるいは救済、が死ぬこと。しかし、いつまでも反復される、どこかで
聞いた憶えのある言葉に既に効力は無い。 「メメント・モリ」 を自分に還元して真剣に考えられるヤツは数えるほどもいない
のだ。死んで終わるのは精神だけ。 肉体は死してなお変化して続けなくてはならない。 自然回帰に到達するまでのかくも
長き魂不在の醜い変化。

TEXT:Momoko OURAN / FOOL'S MATE 1993
re-edit:SCUM 2004